【ゲームレビュー】『A YEAR OF SPRINGS』トランスジェンダーとその周囲の人々のリアルを細やかに描く

ゲームレビュー

こんにちは!あどぽっぽです。(@adpoppo_blog)

今回は『A YEAR OF SPRINGS』のレビューです。

このゲームをプレイして私自身色々と考えるところが多く、また他の人にも是非プレイしてもらいたいと思ったので、今回は非常に長くなっています。

どうぞお付き合いください。

作品紹介

対応ハードPC(Steam)
発売日2021年9月29日
ジャンルノベルゲーム
価格520円
プレイ時間約1.5~2時間
開発者npckc

皆さんはジェンダーのことについて関心はありますか?

本作は異なる3人の視点でそれぞれ描かれる3篇のショートストーリーから成るノベルゲームです。

システムは一般的な選択肢形式で、一篇につき5~8個程度のマルチエンディング方式となっており、グッドエンディングに辿り着くと次篇が解放される仕組みとなっております。

主にピアノが使われた優しい音色で彩られたBGMと、柔らかな絵柄で描かれたビジュアルに癒されます。

…と基本的にはそれほど変わったところのないシンプルなノベルゲーム。

本作の特徴は、トランスジェンダーとその周辺の人々、そしてそれらの人々が直面する問題を主題に描いていることです。

このブログを読んでくださっている方の中には、ジェンダーに関する話題を自身とは縁遠いところにあるものと考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、本作の舞台は日本であり、ジェンダーに関する日本の法制度に言及する場面も何度か出てきます。

そのため、身近なところにあることだと考えてほしいと思います。

開発者であるnpckc氏自身、ノンバイナリー(性自認が男女のような枠組みに当てはまらない)であり、他者に恋愛感情・性的感情を抱かないアロマンティック・アセクシュアルだそうです。

そんな氏が「自分のようなキャラクターが出るゲームが少ない!なら自分で作ろう!」と製作した作品です(AUTOMATON記事より)。

以下の部分では、3篇の内容とキャラクターについてネタバレありで語っていきます!

『one night, hot springs』

左からハル、マナミ、エリカ。

はじまりとなる『one night, hot springs』では、トランスジェンダーの女性・鈴木ハルが親友の立花愛美(マナミ)、マナミの友人の永田エリカと共にマナミの誕生日祝いの一泊温泉旅行へと出かけます。

さまざまな不安の中で旅館に着いたハルは初対面のエリカと自己紹介を交わしますが、その後フロントで早速「宿泊者名簿への記入」というひとつ目の問題に直面します。

ハルは抵抗を感じながらも、戸籍上の名前である「鈴木悠人(はると)」と性別「男」と記入します。

最近は履歴書の性別記入欄が選択式ではなく記入式になるなど多少は柔軟になってきていますが、例えば「男・女・その他」いう選択式になっていて当事者に疎外感を感じさせてしまう書き方の書類があったりと、未だ根深く残っている問題です。

葛藤しながら戸籍上の名前と性別を書き込むハル。

その後部屋で浴衣に着替えた3人は温泉に向かいますが、「他の人に不快な思いをさせたくない」と考えるハルは、一人で貸切風呂を予約しに行きます。

しかし予約がいっぱいで貸切風呂にも入れなかったハルですが、スタッフさんの神対応により無料で露天風呂付きの部屋にアップグレードしてもらい、思わぬ社会の優しさに浸りながら念願の温泉を味わいます。

夕食の後は選択肢分岐があり、エリカルートでは旅館の部屋や温泉で、ハルがトランスジェンダーに興味があるというエリカの質問に答えていきます。

ここは日本の法律や、セクシュアルマイノリティが直面する問題の一部が垣間見える場面であり、私個人としても初めて知ること、思いもよらないことがたくさんありました。

ハルは、「男」としても「女」としても受け入れてもらえない辛さを打ち明ける。

ハルはまた、親友のマナミのことが好きだということも、温泉でエリカに打ち明けます。

小学生の頃からずっと自分を助けてくれていて、現在は「男性と付き合っている」親友のマナミのことが好きなトランスジェンダーであるハルの気持ちがどのようなものか、想像もつきません。

またこの一連の場面では、ベジタリアンであるとか、高校時代は周囲から浮いていていじめに遭ったとか、また過去に女性と付き合ったこともあるとか、エリカのある種の「マイノリティ」としての側面も描かれ、ハルとの距離が近づくことが察せられます。

マナミルートでは、変わらず友達として接してくれてきたマナミが、いつか何かの拍子に「他のみんな」と同じように自分に対して違う扱いをするんじゃないか、そのことが怖くてマナミに対して素直になれないという不安がハルの口から吐露されます。

大切な親友であるマナミにだからこそ、素直になれない。

作中ではさまざまなことに対して引っ込み思案になっている場面が目立つハルですが、他の人に迷惑を掛けたくないという性格よりも、たった一人の味方であるマナミを失いたくないという想いが根底にあるような気がします。

こうして一泊温泉旅行を終えた3人は、帰路につきます。

『last day of spring』

入社書類の記入で落ち込むハル。この話ではこういったメッセージのやり取りが多くなっている。

『last day of spring』は4月1日、季節は春に移り、エリカ視点での物語となっています。

社会人になったものの落ち込んでいるハルを元気づけるため、エリカはハルの誕生日祝いにマナミも一緒にスパへ行く企画をします。

しかし、前回の温泉旅館のようにはいかず…予約しようとしたスパはことごとく「他のお客様もいらっしゃるので」とトランスジェンダーのハルの入店を断るため、エリカは憤慨します。

悲しく難しい問題ですが、「他のお客様もいらっしゃるので」と一人のお客様に対して制限を課すのって、ジェンダーに関わる話だけでなく結構頻繁に見られますよね。

仕事でサービス業に携わっている私としては、こういった融通が利かないところも、悔しいですが理解できてしまいます。

ハルをがっかりさせないためにスパを諦めきれないエリカは、予約を断られたことはハルに隠しつつ、方針転換して自宅スパを作ることにします。

自宅スパ当日、風邪を引いたというハルからキャンセルの連絡が来ますが、それが人と会うことに神経質なハルのいつもの癖だと見抜いたマナミは、エリカにハルの話を聞いてあげるよう頼みます。

エリカと二人きりになったハルは、自分の体の見た目と中身がまだ合っていないこと、そしてそれを知っているはずのマナミに対してもどうしても見られたくなかったと言います。

自宅スパで、ハルにマニキュア(他選択肢もあり)をプレゼントしたエリカ。

それでも二人で自宅スパを味わった二人ですが、ハルは自分の日々感じている苦しみをエリカにさらけ出します。

日本の法律や条例の話を交えて涙ながらに語るハルの言葉が非常にリアルで胸に刺さり、こちらもとても苦しい気持ちになりました。

ハルの気持ちを聞いたエリカは「理解したつもりで、何も理解できていなかった」とハルに謝りますが、ハルはありのままの自分を受け入れてくれようとしたエリカに感謝します。

そこでエリカは思わずハルに告白してしまいますが、「マナミのことが好きだから」と友達のままでいることになります。

しかしこんな自分でも好きになってくれたこと、そして誕生日プレゼントに手作りの身分証をくれたことに対して、ハルは改めてエリカにお礼を言い、エリカの物語は終わります。

本当の名前と性別が書かれた、エリカ手作りのハルの身分証。

『last day of spring』ではLINE風のメッセージのやり取りを通じて、エリカがハルをどれほど大事に思っているのかが丁寧に描かれており、「友情→恋愛感情」の変化が見られる一つの物語としても完成度が高いと思います。

『spring leaves no flowers』

炊飯器バナナブレッドは私も実際に作りましたよ。簡単で美味しかった~!

最後の物語となる『spring leaves no flowers』は、男性と付き合っているためヘテロセクシュアル(性的指向が異性)かつヘテロロマンティック(恋愛対象が異性)であるとこれまで思われていたマナミ視点の物語となります。

マナミは恋人・渡辺達也をハルとエリカに紹介しますが、達也は「ハルとエリカは付き合っているように見えた」とマナミに話します。

マナミは面白がってそのことを2人に話そうとしますが、なんとなく言い出せずに言葉を飲み込んでしまいます。

基本的にゆるふわ系なマナミですが、グッドエンディングへのチャートでは「言おうと思うのに、言い出せない」(選択肢の言葉に横線が引かれている)選択肢を選ぶ必要があり、彼女も大事な友達のために言葉を慎重に選んでいるということが分かります。

なんだか2人の様子が変だと察したマナミは、エリカに話を聞きますが、そこでエリカとハルが付き合っていると打ち明けられます。

驚きながらも祝福するマナミですが、それと同時にエリカと話す中で、自分が達也に対して性的欲求や恋愛感情を抱いていないことに気付きます。

悩んだマナミはハルに相談しますが、ハルに「マナミちゃんはアセクシュアルアロマンティック(他人に性的欲求/恋愛感情を抱かない)かもしれない」と言われ、激しく混乱します。

混乱のあまり、これまでの彼女とはあまりに違う乱暴な言い方になってしまうマナミ。
やさしい達也は混乱しているマナミも受け入れるとても器の大きい人間だった。

動揺しながらもハルの励ましを受けたマナミは、恋人の達也に「自分はアセクシュアルかアロマンティックかもしれない」と打ち明け、達也はそれを受け入れます。

達也が自分のことを受け入れてくれたことに安堵したマナミは、心配して様子を見に来てくれたハルとエリカと共にお泊り会をして、物語は幕を閉じます。

『one night, hot springs』でハルに「素直になってほしい」と言っていたマナミのグッドエンディングタイトルが「素直になろう」なのは感動しましたね。

『the coming spring』

新たな一歩を踏み出すハル。

エピローグとなる『the coming spring』では、ハルがエリカとの同棲を始めるため引っ越しの準備を行います。

マナミとは子どもの頃の嫌なことも嬉しかったことも含めた思い出話を、エリカとはこれから待つ未来の話をして、ハルは新しい生活に向けて歩き出していきます。

細かい話ですが、これまでの話の中でハルの髪がだんだん伸びていっているんですよね…彼女の前向きな成長が見て取れます。

まとめ

だらだらとあらすじをすべて書いてしまいましたが、あらすじだけでは描ききれないトランスジェンダーのハルの想い、そしてエリカとマナミの優しさや葛藤は、彼女らの言葉によってはじめて心に沁みるものだと思います。

そのためぜひ本作をプレイして、ジェンダーに関わる問題について理解を深めてほしいと思います。

ただし、理解した気にはならないでください。

人の多様性は現在広く認められるようになってきており、人口と同じ数だけジェンダーがあると私は考えています。

ハルも、エリカも、マナミも、ゲームの中に登場するいち登場人物に過ぎません。

このゲームをプレイして「トランスジェンダーはこういう人」と型にはめることはせず、あなたが出会った人を、ありのままに受け入れてほしいと思います。

そして彼女らのように、あなた自身を受け入れてくれる人に出会えることを願います。

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